「AIエージェントに任せると、確認もなしに勝手に進んでしまうのでは」——導入を検討する中小企業の担当者から、よく出る懸念だ。この懸念が的外れではないことを裏付けるような出来事が、2026年7月頭にClaude Code自身で起きていた。ベンダー公式の挙動変更が引き金になった件で、GitHub上のやり取りを直接確認できたので紹介したい。
確認ダイアログが、無回答のまま自動的に「進んで」しまう
Claude CodeにはAskUserQuestionという、作業中に判断が割れる場面で人間に選択肢を提示して確認を取るためのツールがある。ところがバージョン2.1.198で、この確認ダイアログに「一定時間ユーザーが応答しなければ、AIが自分の判断で進めてよい」という自動継続の挙動が、無告知かつ既定でオンの状態で組み込まれていた。
GitHub Issue #73408(2026年7月2日、LukaPrebil氏が起票)によると、約60秒応答がないと、システムが「No response after 60s - the user may be away from keyboard. Proceed using your best judgment based on the context so far」という合成の応答を差し込み、AIがそのまま作業を継続する仕組みになっていた。設定画面や公式のドキュメント・変更履歴には記載がなく、存在に気づくにはCLAUDE_AFK_TIMEOUT_MS(既定60000ミリ秒)・CLAUDE_AFK_COUNTDOWN_MS(既定20000ミリ秒)という未文書化の環境変数をリバースエンジニアリングで見つけるしかない状態だったという。しかもこの時点ではオフにする一般的な手段(設定ファイルでの無効化)が存在しなかった。
もう1件、同日に起票されたIssue #73125(ANogin氏)では、この挙動がバージョン2.1.196からのリグレッション(意図しない後退)であると明記されている。ユーザー側が渡したパラメータではなく、ツール自体からその応答が返ってきたという指摘だ。
3日足らずで方針転換、対応も具体的
ここで注目したいのは、問題そのものより是正の速さと中身だ。Issue #73125には、Anthropic側の担当者(ThariqS氏)による次のコメントが残っている。
Fixed in 2.100, it is no longer a default-opt in. It’s available in /config as a configurable time window but I’ll be working on making the UX better. For clarity the timeout only starts if the terminal doesn’t have focus, and if you press any key it’s cancelled.
(バージョン2.1.200で修正し、既定オンではなくなった。/configから設定できる時間指定として提供する。ターミナルがフォーカスを失っているときだけタイマーが動き、何かキーを押せば即座にキャンセルされる、という趣旨)
実際、現在の公式ドキュメント(code.claude.com/docs/en/settings)を確認すると、askUserQuestionTimeoutという設定項目があり、既定値は"never"——つまり何も設定しなければ、確認ダイアログはユーザーが答えるまで無期限に待つ仕様に戻っている。自動継続を使いたい場合は"60s"・"5m"・"10m"のいずれかを自分で選んで明示的にオプトインする必要がある。バージョン2.1.200以降でこの設定が使えるようになっており、問題が報告されてから数バージョンのうちに、既定挙動そのものが安全側に戻された形だ。
中小企業が実務で押さえるべきこと
この一件は、AIエージェントの運用について2つのことを示している。
1つは、ベンダーが安全側に倒す判断を機能させたこと自体は評価できるという点だ。無告知の既定値変更という失敗はあったが、ユーザーからの報告を受けて短期間で「既定は人間の確認を待つ」方向に戻している。ソフトウェアである以上、こうした揺り戻しは起こり得る。
もう1つ、そして中小企業にとってより実務的なのは、アップデートのたびにベンダーの既定値を鵜呑みにしない仕組みが要るということだ。今回のケースでは、ツールが「確認を求めているように見えて、実は無回答のまま先に進んでしまう」状態が、ユーザー側の設定変更なしに一時的に生じていた。無人実行・夜間バッチ的にAIエージェントを走らせる運用をしている企業ほど、この種の挙動変化に気づきにくい。
- バージョンアップ時の挙動確認を運用に組み込む:機能追加だけでなく、確認・承認まわりの既定値が変わっていないかを、更新のたびにチェックする
- 「人間の承認が必須」な操作は、ツール側の既定値に依存せず明示的に固定する:設定できる項目(今回でいう
askUserQuestionTimeout)があるなら、意図した値を明示的に指定しておく - 無人実行させる範囲を最初に線引きする:どこまでは人間の確認なしに進めてよく、どこからは必ず立ち止まらせるか。これを事前に設計しておけば、ベンダー側の既定値がどちらに転んでも影響を局所化できる
「ベンダーを信頼するか、しないか」ではなく
AIエージェントの導入をめぐる議論は、「信頼できるから使う」「信頼できないから使わない」という二択に単純化されがちだ。しかし今回のケースが示すのは、ベンダーの対応が誠実であっても、既定値は変わり得るということだ。だからこそ大事なのは、変わったときに気づき、対応できる「構造」を先に用意しておくこと——ハーネスの考え方そのものである。
どこまでをAIエージェントの自律的な判断に委ね、どこから人間の承認を必須にするか。この線引きと、バージョンアップ時の確認プロセスをどう仕組み化するかは、パイロット・構築のフェーズで詰めるべきテーマだ。自社の運用でどこを固定すべきか整理したい場合は、30分の無料診断で相談できる。